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健康シリーズ HEALTH

第41回「前立腺がん」 の早期発見について 顔写真
水島協同病院泌尿器科医長 武田 繁雄 

 テーマ『前立腺がん』を二回に分けてお話します。
一回目は、(前立腺とはどんな臓器なのか)と、(前立腺がんを早期発見するための検査)についてのお話しです。

前立腺と前立腺がん
 前立腺は、前立腺液を分泌し精子に栄養を与える役目を持つ男性の生殖器の一部で、膀胱から出ていく尿道を取り囲むように存在し、骨盤腔の中でも低い位置にある臓器です。四十歳頃より徐々に、良性の肥大症や悪性のがんが発症することが解っており、これらの病態は男性ホルモンの影響下で発育・増殖していく特徴を持っています。前立腺がんは近年日本人での発生が急激に増加しているがんのひとつであり、その早期発見には、PSA(前立腺特異抗原)というマーカー検査が有用です。

早期診断のためのPSA検診
 本年六月より倉敷市でも基本健診の際、五十歳以上の男性は血液検査で調べることができるようになりました。倉敷市での前立腺がん検診の特徴は、加齢に伴う前立腺肥大のためPSA値が上昇する点を考慮し、年齢別に正常値を設定していることで、特に五十〜六十五歳の年齢層における前立腺がんの早期発見に有用と考えています。PSA高値の場合は泌尿器科専門医で精密検査をすすめられます。PSAが高値を示すと前立腺がんが見つかる確率が高くなります。PSAは前立腺に特異的ですが、前立腺がんに特異的な物質ではなく、その他の要因、例えば、前立腺肥大症や前立腺炎による排尿障害増悪時、直腸指診・尿道操作の後、射精直後など前立腺に対するあらゆる刺激で一過性に高くなる場合があります。そこでこれらに該当する場合には原因を取り除いて、しばらくして(約一カ月後に)PSAの再検が望まれます。

前立腺生検
 それでもPSA高値の場合は生検が必要になり、前立腺がんの確定診断に必要な検査です。方法は施設によって若干異なりますが、経直腸超音波検査で前立腺を調べながら、直腸または会陰部から針生検を行ないます。前立腺辺縁領域といわれる部分を中心に均等に採取された六から十二本の組織を調べることが一般的で、そのために麻酔が必要になる場合があります。検査後に感染、血尿などの合併症がある程度発生する可能性があります。また、かかりつけ医から血小板凝集抑制剤を投与されている場合に検査前には一週間程度の休薬が必要となります。

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前立腺の位置としくみ
血液検査(PSA)

第42回「前立腺がん」 の治療について 2 顔写真
水島協同病院泌尿器科医長 武田 繁雄 医師 

前回お話したPSA検査の普及以前は、前立腺がんの発見といえば骨などへの転移による症状(骨折や麻痺の出現)のこと多かったのですが、PSA検査の普及後は、前立腺の被膜内にとどまる早期がんとして見つかることが多くなりました。

手術療法と放射線療法
 この早期がんに対しては、前立腺とその後ろにある精のうを一緒に切除する前立腺全摘除術が世界的に行われています。病巣を取りきるという意味からは最も優れた治療法ですが、尿漏れや勃起能の低下などの合併症や副作用が1〜2%出現することも事実です。
 また早期がんに対する放射線治療は、コンピューターシミュレーションによる三次元外照射装置の普及により、手術とほぼ同等の治療成績となっています。欧米では以前より組織内照射という放射線同位元素の針を前立腺の組織内に埋め込む治療が行われており、日本でも昨年から一部の施設で行われるようになりましたが、わが国での長期成績の報告が待たれる状況です。放射線治療の副作用は、周辺の正常組織(膀胱や直腸)への刺激症状が多く、尿漏れや勃起能の低下は少ないとされています。
 早期がんの治療は、手術と放射線のどちらかが勧められますが、七十五歳以上であったり、心臓をはじめ内臓系の合併症がある場合には手術をお勧めできないことがあります。

内分泌療法
 どちらの治療も望まれない場合や、残念ながらがんが前立腺から外に出ている場合には、内分泌治療が選択されます。内分泌治療は、第一回目に少し説明しましたが、前立腺由来のがん細胞であれば男性ホルモンの影響下で発育・増殖していく性質を持っているため、男性ホルモンの分泌を抑えたり、働きをじゃましたりしてがんを抑えます。ただし、長期的にはこの治療が効かなくなる場合が多く、抗がん剤の併用などさらに別の治療が行われます。

待機療法
 聞き慣れない言葉ですが、治療方法の選択のひとつとして待機療法(遅延内分泌療法)をご紹介します。もともと北欧では、前立腺がんに対してすぐには治療を開始せず、がんの進行に伴って排尿困難が出現したり、遠隔転移が出現してから去勢術などの内分泌療法をおこなっていました。十五年以上にわたる経過の解析から、前立腺がんのうちのおとなしいタイプは、がんでない人たちとほとんど生存率に変わりがありませんでした。そこで、最近ではがん細胞の顔つき(悪性度)と、拡がり(病期)を考慮し、PSAの定期的検査(場合によっては経時的生検)を行うことで待機療法を選択できる場合もあります。詳しくは外来でご相談ください。

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