前回お話したPSA検査の普及以前は、前立腺がんの発見といえば骨などへの転移による症状(骨折や麻痺の出現)のこと多かったのですが、PSA検査の普及後は、前立腺の被膜内にとどまる早期がんとして見つかることが多くなりました。
手術療法と放射線療法
この早期がんに対しては、前立腺とその後ろにある精のうを一緒に切除する前立腺全摘除術が世界的に行われています。病巣を取りきるという意味からは最も優れた治療法ですが、尿漏れや勃起能の低下などの合併症や副作用が1〜2%出現することも事実です。
また早期がんに対する放射線治療は、コンピューターシミュレーションによる三次元外照射装置の普及により、手術とほぼ同等の治療成績となっています。欧米では以前より組織内照射という放射線同位元素の針を前立腺の組織内に埋め込む治療が行われており、日本でも昨年から一部の施設で行われるようになりましたが、わが国での長期成績の報告が待たれる状況です。放射線治療の副作用は、周辺の正常組織(膀胱や直腸)への刺激症状が多く、尿漏れや勃起能の低下は少ないとされています。
早期がんの治療は、手術と放射線のどちらかが勧められますが、七十五歳以上であったり、心臓をはじめ内臓系の合併症がある場合には手術をお勧めできないことがあります。
内分泌療法
どちらの治療も望まれない場合や、残念ながらがんが前立腺から外に出ている場合には、内分泌治療が選択されます。内分泌治療は、第一回目に少し説明しましたが、前立腺由来のがん細胞であれば男性ホルモンの影響下で発育・増殖していく性質を持っているため、男性ホルモンの分泌を抑えたり、働きをじゃましたりしてがんを抑えます。ただし、長期的にはこの治療が効かなくなる場合が多く、抗がん剤の併用などさらに別の治療が行われます。
待機療法
聞き慣れない言葉ですが、治療方法の選択のひとつとして待機療法(遅延内分泌療法)をご紹介します。もともと北欧では、前立腺がんに対してすぐには治療を開始せず、がんの進行に伴って排尿困難が出現したり、遠隔転移が出現してから去勢術などの内分泌療法をおこなっていました。十五年以上にわたる経過の解析から、前立腺がんのうちのおとなしいタイプは、がんでない人たちとほとんど生存率に変わりがありませんでした。そこで、最近ではがん細胞の顔つき(悪性度)と、拡がり(病期)を考慮し、PSAの定期的検査(場合によっては経時的生検)を行うことで待機療法を選択できる場合もあります。詳しくは外来でご相談ください。