第74回:早期発見がカギ 自覚症状と検診で膀胱がんの診断と治療 |
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水島協同病院 泌尿器科医長 武田 繁雄 |
1:膀胱がんとは 泌尿器科が扱う悪性腫瘍の中で、膀胱がんは最も頻度が高い疾患です。腎臓・尿管・膀胱・尿道などの多くの臓器で尿と接触する部分の細胞(尿路上皮といいます)から発生する尿路上皮がんが90%以上を占め、男性:女性では3:1と男性に多く、60?70歳代に好発し、1万人に約1人の発生率といわれています。 2:症状と診断 膀胱がんの症状として、無症候性肉眼的血尿(痛みがなく血尿がでる)や膀胱炎症状(頻尿・残尿感・排尿時痛などでなかなか治らない)があります。最近では自覚症状のないまま、検診での顕微鏡的血尿(検査では尿に血が混じる)や腹部超音波検査を契機に発見される場合が増加しています。膀胱がんは発見されたときに、どの程度進行しているかが予後を決める重要な因子のひとつですので、早期発見のためには、これらの症状があったり、精密検査を勧められたら、ぜひ泌尿器科へご相談ください。泌尿器科では尿道膀胱ファイバースコープという器械で膀胱の中を検査し、一部組織を採取することで診断をします。 3:進行と治療方法 膀胱がんのうち膀胱粘膜内にとどまる表在性膀胱がんが約70%といわれており、尿道を通して内視鏡を入れ、電気メスで切り取る手術(TURBTといいます)を受けることで、5年以内にこの病気で命を落とす方は10%以下です。また膀胱がんは膀胱内に多発したり、5年間に約半数で再発が見られます。この時も表在性の再発であれば予後に影響を与えません。また表在性膀胱がんの中でも上皮内がん(CIS)は、再発をくり返し膀胱筋層に浸潤し、予後不良となることがあります。 しかし最近では、表在性膀胱がんでも再発を繰り返したり、上皮内がんに対してはBCG膀胱内注入療法(膀胱の中に結核の毒性を弱めた薬を定期的に入れて、免疫の力で膀胱がんを治療する方法)を行い、良好な治療成績が得られています。ただし最初から膀胱筋層に及ぶ浸潤性膀胱がんは全身の他の臓器への遠隔転移を起こしやすいため予後は不良です。 浸潤性膀胱がんの治療は、遠隔転移がなければ、膀胱全摘除術を行う考え方が現在でも主流ですが、臓器(膀胱)温存を目的として抗がん剤の動脈内注入療法と放射線療法を初期治療として行う考え方もあります。 4:原因と注意すること 1890年代にドイツで化学工場のアニリン暴露により膀胱がん患者が多く見られたことから研究が進み、多くの膀胱発がん物質が明らかになりました。これらを使用禁止にすることでわが国でも職業性膀胱がんの発生は見られなくなりました。自然発生の膀胱がんでは、くり返す尿路感染、尿の停滞、結石形成は注意が必要で、尿中細菌により発生する発がん物質のニトロサミンが関与することがわかっています。また治療薬として使用されるお薬の中には投与量依存性に発がんの危険性が高まることもわかってきました。ただ最も注意しなければならない危険因子は喫煙で、統計でみると明らかに膀胱がんの発生や再発に関係がありますので、注意が必要です。 |